花粉症教室

第五回中医薬学術交流会発表論文より抜粋

目次

(1)睡眠とは


(2)現代医学からみた不眠のタイプ
①寝つきが悪い ②中途覚醒 ③熟眠障害
④早朝覚醒 ⑤覚醒障害 ⑥夢の障害


(3)不眠を起こす主な病気


(4)その他の原因による不眠
①加齢による不眠
②精神生理性不眠


(5)中医学の視点からみた不眠のタイプと治療法
①肝鬱化火による不眠
②痰熱による不眠
③心脾両虚による不眠
④心腎不交による不眠
⑤心胆気虚による不眠

睡眠とは何か?

睡眠は人間が生きていくために不可欠なものである。
眠りたいという気持ちは、少しでも長生きしたい、食べたいなどの気持ちと同じ生理的欲求の一つなのである。 然るに、人間にとっては眠れるのが当然で、誰でも習わなくても生まれたときから自然に行う営みなのである。

中医学の視点から不眠のメカニズムを分析する。

では、なぜ私たちは不眠症になるのであろうか。
何らかの疾病が原因で眠れない原因が明らかな不眠症もある。 しかし、不眠の中で60%以上は心因性のものであると言われている。対処法としては精神安定剤および入眠剤の使用が多くを占める。
しかし、それだけで心因性のものに対して根本的な改善がはかれるのであろうか。本論では心理的なもの、および生活習慣がどのように身体に影響を与えるのか中医学の視点から分析する。 最後に症例を通して心因性の不眠症の根本的な解決のために何が大切か検証する。
さらに生活習慣によって引き起こされる不眠についても考察する。

その前に睡眠のメカニズムを簡単に理解しましょう。

睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠から成り立っています。
ノンレム睡眠とレム睡眠をワンセットにして、睡眠の一単位といい、大体90分から100分の周期で、繰り返されます。


以下の表のように1日6時間~8時間眠るとすれば、この睡眠の一単位が4回~5回繰り返されるわけです。

不眠症の人は、この第3、第4段階の深い眠りが無くなり、第1、第2段階の浅い眠りばかりになっていると考えられます。


さて、不眠症の人のように、第1段階、第2段階の浅い眠りしかとれないと、起床時に頭がボーっとするなど、熟睡感が持てません。
しかし、このような不快感の一部は、不眠そのものよりも、むしろよく眠れたという満足感がないことや、眠れなかったことに対する失望、あるいは睡眠不足で健康を害したり、 大切なことに集中できないのではないかという不安など、心理的な影響によるものが大きいと考えられます。


また、不眠症の人は、他人にはすやすやと眠っているように見えても、深い眠りに入っていないため、ちょっとした刺激ですぐに目が覚めてしまいます。

ノンレム睡眠とは

ノンレム睡眠とは、脳が眠り、身体が起きている睡眠で、精神面での休養と、身体機能の回復を行う睡眠です。


①体温が下がり、代謝活動が最低になってエネルギーを温存し、組織の成長や回復を行います。体温が下がると血液の温度も下がるので、それによって脳のオーバーヒートを防いでいます。


②副交感神経系が優位となり、呼吸もゆるやかになり、心拍数が下がります。


②深いノンレム睡眠中は、脳下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌が一日のうちで、最も盛んになります。
成長ホルモンには、身体活動に必要な物質を合成し蓄え、不要なものを排泄させる働きがあるのです。
成長ホルモンによって新陳代謝が活発になり、組織の修復や機能回復が行われるのです。
すなわち、疲労の回復です。


④筋肉に送られる血液の量が多くなり、体力を回復させます。

レム睡眠とは

レム睡眠時は、眼球がまぶたの下で、左右を見るように激しく動いています。ですからREM(Rapid Eye Movement)睡眠と名づけられました。


実はレム睡眠中は、目覚めているときよりも交感神経系が活発になっているのです。脳の血流量が増して、自律神経機能である血圧や心拍数はあがり、不規則に変化しています。


レム睡眠とは、脳が目覚めていて、身体が休んでいる睡眠なのです。
眼球が激しく動いているときに、生活の中で様々な、思考や判断、感情の処理、記憶など膨大な量の情報に触れていますが、 大脳はそれらの情報を頭のなかのノートにきれいに整理し直しているのです。


レム睡眠中に、脳は一日に得た情報を保管し、これまでの情報と組み合わせて再編成し、より使いやすいように、必要な情報を優先順位に合わせて並び替えているのです。


ですから、レム睡眠がとれないと、学ぶ、考る、記憶するなどの、日常の行動に大きな支障が生じるのです。
またレム睡眠は、脳細胞を休息させ、セロトニンなどの神経伝達物質の補給を行います。


神経伝達物質は正常な精神活動を行うために欠かせないものなのですが、激しいストレスや感情の刺激、過剰な精神活動などによって、ひどく消耗してしまうのです。


さらに、レム睡眠時には、肉体疲労の回復が行われています。
また、レム睡眠は、ノンレム睡眠を繰り返すたびに段々長くなります。
夜の睡眠が短いと、あけがたに現れる長いレム睡眠がなくなってしまうのです。
ですから、本当に心身を休めるためにはある程度の睡眠時間が必要であるといえるのです。

(2)現代医学からみた不眠のタイプ

1睡眠の障害

睡眠の障害には、
①寝つきが悪い(床に入ってもなかなか寝つけない)、
②中途覚醒(寝ている途中で何度も目が覚める)、
③熟眠障害(眠りが浅く、ぐっすり眠れない)、
④早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまって、それから寝つけない)、
⑤覚醒障害(寝覚めが極端に悪い)、
⑥夢の障害(よく夢を見る、悪夢にうなされるなど)
のタイプがあります。

2不眠を起こす主な病気

①神経症・心身症による不眠
②睡眠時無呼吸症候群
③高血圧症・動脈硬化症
④前立腺疾患
⑤甲状腺機能亢進症
⑥うつ病・統合失調症

その他の原因による不眠

①精神生理性不眠
②加齢による不眠

一.中医学の視点からみた不眠タイプと治し方

不眠の病因・病理は次の5つのタイプに分けて考えられる

①肝鬱化火による不眠
②痰熱による不眠
③心脾両虚による不眠
④心腎不交による不眠
⑤心胆気虚による不眠

①肝鬱化火による不眠

長期にわたり感情を抑圧したり、悩んだり、怒りの感情を持ち続けると、肝の条達が失調し、肝気は鬱して通暢しなくなる。
肝気が鬱した状態が長期化し、この状態が改善されないと、肝気は火と化しやすい。
火の性質は上炎であるため頭部を上擾し、心神を乱し、心神不安を引き起こし、不眠を生じさせる。


症状:
いらいらしやすく又情緒が激しく変動しやすい。時に頭暈頭痛を伴う。目が赤い、口苦、喉が渇いて冷たい物を飲みたがる、などが全般して見られる。尿黄、便秘。
舌質は紅、舌質は黄
脈は弦、やや数


治法:疏肝瀉火、寧心安心
処方:肝喩、行間、足竅陰、神門、風池。


方義:
肝兪で泄火、行間で平肝をはかる。足竅陰は点刺出血を施すことで、降火して除煩することができる。さらに神門によって安神をはかる。 風池は局所取穴に属し、頭痛・めまいなどの症状に効果がある。

②痰熱による不眠

痰熱の発生はまず湿の発生に始まる。過剰な飲食(脂っこいもの、甘いもの、味の濃いもの、冷たいもの、飲酒)、季節の影響(梅雨や高湿度)などにより、 胃の受納や脾の運化機能が失調し、食物が胃腸に停滞し、消化できなくなると湿を発生する。
湿が凝集したものが痰であり、湿も痰も陰に属し、動きが鈍く一箇所にずっととまって停滞する。 停滞が長引くと、痰は熱に変わりやすく、熱の性質によって、痰と熱がいっしょになって上昇して、心神を犯して不眠を生じさせる。


症状:
痰が多い、胸悶感がある、心煩、呑酸、吐き気、口苦、口臭、頭重、めまい
舌苔は厚膩で黄
脈は弦、滑、数


治法:清熱化痰、和胃安神


処方:中脘、豊隆、内関、厲兌、少府、陰白


方義:
中脘は胃の募穴であり、足陽明胃経の経絡である豊隆と配合して和胃化痰をはかる。内関は手厥陰心包経の穴で陰維脈に通じ、和胃・安神をはかることができる。 陰白は脾経の井穴であり、厲兌は胃経の井穴で、瀉熱安神の作用を持つ、少府は心経の穴で清心導火の作用を持つ。

③心腎不交による不眠

ストレスや過剰な精神活動によって、喜、怒、思、悲、恐の五志が限度を超えて働くと、心火内熾の状態となり、心火が亢逆し、下って腎と交わりをもてなくなる。 心腎が交わりを失うと心火は亢盛し、その熱は神明を擾し、不眠を引き起こす。
また身体が虚弱、慢性疾患、房事過多などによって腎陰が損傷すると、腎水が不足し、上昇して心陰を養うことができなくなる。そのため、心陰が不足し、心陽が亢盛になる。


症状:
不眠、心煩、心悸不安、めまい、耳鳴、津液が少なく喉が渇く、腰部酸痛、夢精、忘れっぽい
舌質は紅で少苔
脈は細、数


治法:交通心腎、清心安神


処方:腎兪、心兪、太谿、大陵、太衝、神門


方義:
腎兪・太谿で腎陰を補う。太衝で虚熱を降ろし、大陵で心火を降ろす。また心兪・神門で養心安神をはかる。太谿・神門には補法、大陵・太衝には瀉法、心兪・腎兪には平補平瀉法を施す。

④心胆気虚による不眠

元来、精神的刺激に対して敏感で些細なことにまで気に病んだりものごとに驚いたりしやすい人が極度の精神的刺激を受けると、胆の持つ決断の機能が失調し、 終日ものごとにびくびくして心神が傷つけられ、感情の緊張状態が持続することになる。それが長く続くと心虚、胆虚となり不眠をきたす。


症状:
多夢、驚いて目を覚ましやすい、普段からものごとに動じやすい、おどおどしている、心悸、息切れや倦怠感、尿量が多く尿の色は清澄、舌質は淡、脈は弦細。


治法:益気鎮驚、安神定志


処方:胆兪、神門、合谷、気海、丘墟、安眠


方義:
胆兪・丘墟・神門にて安神定志、合谷・気海にて補気をはかる。安眠は経験穴である。

⑤心脾両虚による不眠

過度な労働、思慮過度は心脾を損傷しやすい。心が傷つけられると、心血虚を招き、その結果心血が神を養うことが出来なくなって神志を司れなくなる。
また、脾が傷つけられると飲食不可となり、気血の生成が十分出来なくなる。 このため、心血が充足できなくなり、心は神を養えなくなり、神志を司る作用すなわち精神活動に支障を来し、心神不安を招いて不眠を起こす。


症状:
多夢、目が覚めやすい、心悸、忘れっぽい、無力、元気がない、精神疲労しやすい、食欲不振、顔色が青白くツヤがない、めまい